資格スクエアの書籍の不正利用が憲法・行政法学習にもたらす影響とは

世界がコロナ禍に襲われている中、2020年8月の資格スクエアの書籍の不正利用は大きなニュースにならなかったので、知らない人も少なくないでしょう。
資格スクエアが書籍の不正利用をして教材を作ったことを知ったとしても、受講生に直接デメリットがなければ、評判が落ちた分、安く受講出来て得になると考えるかも知れません。

しかし、書籍1冊を指定してテキストを編集する方法は、憲法学習に合わない可能性がありますし、素人目にも著作権法違反が明らかな行為に対して、スタッフが疑問を持たない状態でテキストを編集すれば行政法の学習にも支障が出るはずです。

仮に、「資格スクエアの行政書士講座が9割引き」のような広告を見た時に、書籍の不正利用の事実があったにもかかわらず、安いから受講したいという人のために、具体的にどのようなデメリットがあるのか検証していきましょう。

資格スクエアでは憲法の過去問が解けなくなるおそれあり

資格スクエアではテキストを編集する際に、参考書を1冊指定して、条文や判例はそのまま、解説の部分を要約したり、多少の修正をしていたと報告されています。

指定された参考書が間違っていれば、間違った内容のままテキストを編集してしまうことになります。また、要約や修正が正確でなければ、誤解して学習してしまう危険性もあります。
さらに1冊の参考書だけになると、様々な角度から学ぶことが難しくなります。

具体的に検証しましょう。
1つ目は「誤植があった場合」です。
憲法の頻出問題の一つに、「メモ採取不許可国家賠償請求事件」に関するものがあります。
法廷でメモを取ることを禁止するのは憲法に反するとして最高裁まで争ったのですが、結果は棄却。つまり、メモを取る権利は認められなかったのです。
しかし、傍聴人がメモを取ることは、憲法21条1項の精神に照らし尊重に値し、故なく妨げられてはならないと判示され、以後メモが事実上認められています。

たとえば、「メモ」が「メモリ」と誤植されていた時は、間違いなのだろうと分かりますが、憲法21条1項の部分が、憲法82条1項となっていた場合はどうなのでしょうか。「メモ採取不許可国家賠償請求事件」は憲法82条1項も争点になっているので、「憲法82条1項の精神に照らし尊重に値し」と判示される可能性もあったはずです。初学者が「憲法82条1項と書いてるのは間違いかも」と思うのは無理です。

そのまま憲法82条1項と覚えて、過去問を解いたら、憲法21条1項が正解となっていて、最高裁判所のホームページなどで調べれば憲法21条1項が正しいと分かりますが、深く考えずにスルーしてしまうこともあるでしょう。
一度憲法82条1項と覚えたものを、憲法21条1項と覚えなおすのも大変ではないでしょうか。過去問を解く度に、82条1項だったかな、憲法21条1項だったかなと混乱することもあります。

誤植はオリジナルのテキストを作成しても避けることができないのですから、参考書の誤植をそのまま書籍の不正利用してもあまり違いはないと思うかもしれません。
しかし、要約や修正が行われた場合は、問題が大きくなります。

2つ目の「要約・修正が行われた時の問題」を検証しましょう。
メモを取る権利が認められなかったのに、メモが認められるようになったのは矛盾しているように見えます。憲法を初めて勉強する人には、何を言っているのか分からないかも知れません。

新型コロナで緊急事態宣言が出た時のことを思い出してください。ロックダウンしている国のように、原則外出禁止ではなく、日本は原則外出可能で自粛するという形でした。同じように、「メモ採取不許可国家賠償請求事件」以前は、メモを取ることが原則禁止だったのですが、メモ採取を尊重すると判示されたことで、原則可能に変わったのです。

初学者にとって、条文と判例を読んだだけで「メモ採取不許可国家賠償請求事件」の問題を解くのはなかなか難しいはずです。
メモを取る権利は認められなかったのですから、「メモを取ることは尊重される」との文章を間違いと判断しそうです。逆に、メモを取ることができるようになったという事実を覚えて、「メモを取る権利が認められた」という文章を正解と判断することもあるでしょう。

行政書士試験では、「権利を認める」ことと「尊重する」ことの差を意識しながら、「憲法21条1項の精神に照らし尊重される」ことをしっかり覚えておく必要があります。過去問で何度も問われていますし、21条や1項という数字も覚えておくと良いでしょう。

テキストでは「メモ採取不許可国家賠償請求事件」の判例を出すよりも、行政書士試験の得点に直結する部分を強調するべきなのです。
要約・修正の方法によっては、強調しなければならない部分が消えてなくなる可能性があります。たとえ司法試験の合格者といえども、全ての論点を完璧に理解しているわけではないですし、行政書士試験を受験していなければ、行政書士試験で重視するべきところもわからないはずです。
行政書士試験の憲法を勉強する場合は、頻出事項を正確に学ぶ必要があり、誤植があったり、要約・修正が不完全であったりする場合は過去問すら解けなくなる危険性があるのです。

資格スクエアでは行政法のテキストが理解できなくなる問題あり

資格スクエアで書籍の不正利用が起こったのは、著作権等に関する知識不足があったからと報告されていますが、単に知識不足で片付けてしまうと、受講生が行政法のテキストを理解できなくなるというデメリットが生じます。
「制作スタッフが著作権に無知でも、書籍の不正利用した元の参考書がしっかりしていれば理解できるのでは」と思ってしまうかもしれませんが、行政法の学習には難しい問題があるのです。

行政法は得意な人と苦手な人が大きく分かれる科目です。
暗記中心で学習を進める人は行政法を得意と感じ、行政法を理解しようとする人は苦手と感じる傾向があります。
どうしてなのでしょうか?

民事・刑事は正義や慣習といった常識を基礎にして成り立っているので、常識的に判断すれば理解できるのですが、行政法令は専門的なものなので、専門性がないと理解し難いのです。民法や商法のように、常識から理解しようとするとなかなかうまくいかないので行政法を苦手に感じ、専門的な部分を暗記してしまえば何となく点数を稼げるので、暗記中心の学習だと得意に感じやすいのです。

確かに暗記中心の学習でも、行政法の点数は伸びてくるのですが、合格ラインあたりで苦しみ始めます。やはりある程度は理解しないと合格ラインを超えるのが難しくなるのです。

行政法を理解するために1つだけの理論を挙げろと言われたら、「先例重視」を挙げます。
平成16年3月16日に最高裁で出された判決に、保護変更決定処分が取り消されたものがあります。生活保護受給者が、生活保護受給金から学資保険をかけた点を違法として自治体が減額処分を行ったことに違法判決を出したのです。
常識で考えれば、子供のために節約して学資保険をかけることは美徳でしょう。しかし、先例は資産がなくなった時に生活保護を支給することになっているので、学資保険という資産がある以上減額は当然ということになります。

「最高裁で否定されたのだから、減額処分は間違い」と単純に考えると、行政法を理解し難くなります。行政法では、公定力というものがあり、明らかで重大な違法性がない限り、権限のある行政庁か裁判所が取り消すまで有効なものとして扱われます。
つまり、減額処分を受けてから、最高裁で取り消しが確定するまでは有効だったのです。

近年、自治体が法令解釈権を持つべきという見解が有力になってきて、国が通達で法律の解釈を示してきても、自治体が独自に具体的な内容を決めて良い方向に進んでいます。

それでもなお「先例重視」が続くのは、巨大化した行政組織の一部が勝手に動いてしまえば統制を取るのが難しくなるからです。
さらに行政訴訟法第九条にある通り、「根拠となる法令の規定の文言のみによることなく」他の法令や条文との繋がりも重視するのが行政法なので、先例に従う方が他の法令や条文との矛盾が生じないという理由も存在します。

このように、「先例重視」の行政法を学ぶには、先例はどうなのか調べる癖が必要になります。著作権等の知識が少ないような人が作るテキストでは、先例を調べる癖どころか、先例すら知らないことになりかねません。

そもそも、資格スクエアのスタッフは著作権等の知識が少ないと報告されていますが、本当なのでしょうか?
弁護士から見れば知識が少ないのでしょうが、今回の書籍の不正利用は素人目にもわかるレベルで、細かい知識がなければ対応できなかったというようなものではありません。
たとえ高校までは受験のための勉強だけをしていたとしても、大学ではレポートを書くことが増えるので、他人の著作物を利用する時は引用しなければならないことは身についているはずです。
制作スタッフは司法試験受験生と合格者を中心としているので、法学部出身者も多いでしょうし、法律の素養がないはずがありません。恐らく、「先例重視」が身につかないまま合格した人が多かったのではないでしょうか。

「先例重視」を身に付けずに、行政法を理解しないまま暗記で合格した場合は、今回のような書籍の不正利用が起こる可能性があります。
引用以外に著作物を利用できる場合として、教科用図書への掲載が挙げられます(著作権法第33条)。
著作権法第33条1項だけを読むと、教育目的なら著作物を利用しても良いように思えますが、2項を読むと、著作者に通知し、補償金を著作者に支払わなければならないと規定されています。

司法試験合格者でありながら著作権等の知識が少ないのですから、著作権法第33条1項は知っていて、著作権法第33条2項は知らなかったとするのが現実的です。暗記中心で学習するなら、暗記する量を減らさなければならないのですから、1項を中心に暗記して、2項以下は無視するような勉強方法になるはずです。複数の司法試験合格者がいるなら、2項を読んだ人もいるはずです。
補償金は著作者に通知して銀行口座を知らせて貰わなければ払えないのですから、著作者への通知が何らかの条件でできなかったのなら、著作権法第33条2項を満たしていなくても事務的なミスで済みそうです。

資格スクエアの行政書士講座を受講すると、著作権法第33条2項を無視するような勉強方法になるか、事務的ミスでごまかしてしまうような法曹として問題がある人材に育ってしまう危険性があります。
これではどんなに行政法を学んでも行政法を理解したとは言えません。資格スクエアで行政法を勉強してはいけないとまで言えるのです。


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